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values | Context stringlengths 1 4.96k | Question stringlengths 7 248 | GroundtruthAnswer stringlengths 2 663 |
|---|---|---|---|---|
JCRRAG_010801 | 国語 | 自分には、人間の女性のほうが、男性よりもさらに数倍難解でした。自分の家族は、女性のほうが男性よりも数が多く、また親戚にも、女の子がたくさんあり、またれいの「犯罪」の女中などもいまして、自分は幼い時から、女とばかり遊んで育ったといっても過言ではないと思っていますが、それは、また、しかし、実に、薄氷を踏む思いで、その女のひとたちと附合って来たのです。ほとんど、まるで見当が、つかないのです。五里霧中で、そうして時たま、虎の尾を踏む失敗をして、ひどい痛手を負い、それがまた、男性から受ける笞とちがって、内出血みたいに極度に不快に内攻して、なかなか治癒し難い傷でした。
女は引き寄せて、つっ放す、或いはまた、女は、人のいるところでは自分をさげ... | 女の限りないアンコールに応じた結果、自分はどのような状態になりましたか。 | 女の限りないアンコールに応じた結果、自分はその限りないアンコールに応じて、へとへとになるのでした。 |
JCRRAG_010802 | 国語 | 自分が中学時代に世話になったその家の姉娘も、妹娘も、ひまさえあれば、二階の自分の部屋にやって来て、自分はその度毎に飛び上らんばかりにぎょっとして、そうして、ひたすらおびえ、
「御勉強?」
「いいえ」
と微笑して本を閉じ、
「きょうね、学校でね、コンボウという地理の先生がね」
とするする口から流れ出るものは、心にも無い滑稽噺でした。
「葉ちゃん、眼鏡をかけてごらん」
或る晩、妹娘のセッちゃんが、アネサと一緒に自分の部屋へ遊びに来て、さんざん自分にお道化を演じさせた揚句の果に、そんな事を言い出しました。
「なぜ?」
「いいから、かけてごらん。アネサの眼鏡を借りなさい」
いつでも、こんな乱暴な命令口調で言うのでした。道化師は、素... | 道化師は、素直に誰の眼鏡をかけましたか。 | 道化師は、素直にアネサの眼鏡をかけました。 |
JCRRAG_010803 | 国語 | 自分が中学時代に世話になったその家の姉娘も、妹娘も、ひまさえあれば、二階の自分の部屋にやって来て、自分はその度毎に飛び上らんばかりにぎょっとして、そうして、ひたすらおびえ、
「御勉強?」
「いいえ」
と微笑して本を閉じ、
「きょうね、学校でね、コンボウという地理の先生がね」
とするする口から流れ出るものは、心にも無い滑稽噺でした。
「葉ちゃん、眼鏡をかけてごらん」
或る晩、妹娘のセッちゃんが、アネサと一緒に自分の部屋へ遊びに来て、さんざん自分にお道化を演じさせた揚句の果に、そんな事を言い出しました。
「なぜ?」
「いいから、かけてごらん。アネサの眼鏡を借りなさい」
いつでも、こんな乱暴な命令口調で言うのでした。道化師は、素... | 当時、日本で人気があった喜劇役者は誰ですか。 | 当時、日本で人気があった喜劇役者はハロルド・ロイドとかいう外国の映画の喜劇役者です。 |
JCRRAG_010804 | 国語 | 竹一は、また、自分にもう一つ、重大な贈り物をしていました。
「お化けの絵だよ」
いつか竹一が、自分の二階へ遊びに来た時、ご持参の、一枚の原色版の口絵を得意そうに自分に見せて、そう説明しました。
おや? と思いました。その瞬間、自分の落ち行く道が決定せられたように、後年に到って、そんな気がしてなりません。自分は、知っていました。それは、ゴッホの例の自画像に過ぎないのを知っていました。自分たちの少年の頃には、日本ではフランスの所謂印象派の画が大流行していて、洋画鑑賞の第一歩を、たいていこのあたりからはじめたもので、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ルナアルなどというひとの絵は、田舎の中学生でも、たいていその写真版を見て知っていたのでし... | ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ルナアルなどというひとの絵は、田舎の中学生でも、たいてい何を見て知っていたのですか。 | ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ルナアルなどというひとの絵は、田舎の中学生でも、たいていその写真版を見て知っていました。 |
JCRRAG_010805 | 国語 | 竹一は、また、自分にもう一つ、重大な贈り物をしていました。
「お化けの絵だよ」
いつか竹一が、自分の二階へ遊びに来た時、ご持参の、一枚の原色版の口絵を得意そうに自分に見せて、そう説明しました。
おや? と思いました。その瞬間、自分の落ち行く道が決定せられたように、後年に到って、そんな気がしてなりません。自分は、知っていました。それは、ゴッホの例の自画像に過ぎないのを知っていました。自分たちの少年の頃には、日本ではフランスの所謂印象派の画が大流行していて、洋画鑑賞の第一歩を、たいていこのあたりからはじめたもので、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ルナアルなどというひとの絵は、田舎の中学生でも、たいていその写真版を見て知っていたのでし... | 自分は、ゴッホの原色版を見て、どんな感想を抱きましたか? | 自分は、ゴッホの原色版を見て、タッチの面白さ、色彩の鮮やかさに興趣を覚えていました。 |
JCRRAG_010806 | 国語 | 竹一は、また、自分にもう一つ、重大な贈り物をしていました。
「お化けの絵だよ」
いつか竹一が、自分の二階へ遊びに来た時、ご持参の、一枚の原色版の口絵を得意そうに自分に見せて、そう説明しました。
おや? と思いました。その瞬間、自分の落ち行く道が決定せられたように、後年に到って、そんな気がしてなりません。自分は、知っていました。それは、ゴッホの例の自画像に過ぎないのを知っていました。自分たちの少年の頃には、日本ではフランスの所謂印象派の画が大流行していて、洋画鑑賞の第一歩を、たいていこのあたりからはじめたもので、ゴッホ、ゴーギャン、セザンヌ、ルナアルなどというひとの絵は、田舎の中学生でも、たいていその写真版を見て知っていたのでし... | 自分は本棚から、モジリアニの画集を出し、どのような像を竹一に見せましたか。 | 自分は本棚から、モジリアニの画集を出し、焼けた赤銅のような肌の、れいの裸婦の像を竹一に見せました。 |
JCRRAG_010807 | 国語 | 自分は、小学校の頃から、絵はかくのも、見るのも好きでした。けれども、自分のかいた絵は、自分の綴り方ほどには、周囲の評判が、よくありませんでした。自分は、どだい人間の言葉を一向に信用していませんでしたので、綴り方などは、自分にとって、ただお道化の御挨拶みたいなもので、小学校、中学校、と続いて先生たちを狂喜させて来ましたが、しかし、自分では、さっぱり面白くなく、絵だけは、(漫画などは別ですけれども)その対象の表現に、幼い我流ながら、多少の苦心を払っていました。学校の図画のお手本はつまらないし、先生の絵は下手くそだし、自分は、全く出鱈目にさまざまの表現法を自分で工夫して試みなければならないのでした。中学校へはいって、自分は油絵の道具も一揃... | 自分は、いつから、絵をかくのも、見るのも好きでしたか。 | 自分は、小学校の頃から、絵はかくのも、見るのも好きでした。 |
JCRRAG_010808 | 国語 | 自分は、小学校の頃から、絵はかくのも、見るのも好きでした。けれども、自分のかいた絵は、自分の綴り方ほどには、周囲の評判が、よくありませんでした。自分は、どだい人間の言葉を一向に信用していませんでしたので、綴り方などは、自分にとって、ただお道化の御挨拶みたいなもので、小学校、中学校、と続いて先生たちを狂喜させて来ましたが、しかし、自分では、さっぱり面白くなく、絵だけは、(漫画などは別ですけれども)その対象の表現に、幼い我流ながら、多少の苦心を払っていました。学校の図画のお手本はつまらないし、先生の絵は下手くそだし、自分は、全く出鱈目にさまざまの表現法を自分で工夫して試みなければならないのでした。中学校へはいって、自分は油絵の道具も一揃... | 自分のかいた絵の評判はどうでしたか。 | 自分のかいた絵は、自分の綴り方ほどには、周囲の評判が、よくありませんでした。 |
JCRRAG_010809 | 国語 | 自分は、小学校の頃から、絵はかくのも、見るのも好きでした。けれども、自分のかいた絵は、自分の綴り方ほどには、周囲の評判が、よくありませんでした。自分は、どだい人間の言葉を一向に信用していませんでしたので、綴り方などは、自分にとって、ただお道化の御挨拶みたいなもので、小学校、中学校、と続いて先生たちを狂喜させて来ましたが、しかし、自分では、さっぱり面白くなく、絵だけは、(漫画などは別ですけれども)その対象の表現に、幼い我流ながら、多少の苦心を払っていました。学校の図画のお手本はつまらないし、先生の絵は下手くそだし、自分は、全く出鱈目にさまざまの表現法を自分で工夫して試みなければならないのでした。中学校へはいって、自分は油絵の道具も一揃... | 自分の綴り方は、小学校、中学校の先生たちにどう評価されてきましたか? | 自分の綴り方は、小学校、中学校の先生たちを狂喜させて来ました。 |
JCRRAG_010810 | 国語 | 自分は、小学校の頃から、絵はかくのも、見るのも好きでした。けれども、自分のかいた絵は、自分の綴り方ほどには、周囲の評判が、よくありませんでした。自分は、どだい人間の言葉を一向に信用していませんでしたので、綴り方などは、自分にとって、ただお道化の御挨拶みたいなもので、小学校、中学校、と続いて先生たちを狂喜させて来ましたが、しかし、自分では、さっぱり面白くなく、絵だけは、(漫画などは別ですけれども)その対象の表現に、幼い我流ながら、多少の苦心を払っていました。学校の図画のお手本はつまらないし、先生の絵は下手くそだし、自分は、全く出鱈目にさまざまの表現法を自分で工夫して試みなければならないのでした。中学校へはいって、自分は油絵の道具も一揃... | 自分は、竹一の言葉に依って、どのような事に気が附きましたか。 | 自分は、竹一の言葉に依って、自分のそれまでの絵画に対する心構えが、まるで間違っていた事に気が附きました。 |
JCRRAG_010811 | 国語 | 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く? けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何とも無いような顔をして、
「可愛い坊ちゃんですね」
といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞えないくらいの、謂わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いさ... | 私は、その男の写真を何葉、見たことがあるか。 | 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。 |
JCRRAG_010812 | 国語 | 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く? けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何とも無いような顔をして、
「可愛い坊ちゃんですね」
といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞えないくらいの、謂わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いさ... | 十歳前後かと推定される頃の写真は、どのような内容の写真であるか。 | 十歳前後かと推定される頃の写真の一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。 |
JCRRAG_010813 | 国語 | 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く? けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何とも無いような顔をして、
「可愛い坊ちゃんですね」
といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞えないくらいの、謂わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いさ... | その子供の笑顔は、どのようなものが感ぜられて来るか。 | その子供の笑顔は、よく見れば見るほど、何とも知れず、イヤな薄気味悪いものが感ぜられて来る。 |
JCRRAG_010814 | 国語 | 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く? けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何とも無いような顔をして、
「可愛い坊ちゃんですね」
といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞えないくらいの、謂わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いさ... | この子は、両方のこぶしをどうしているか。 | この子は、両方のこぶしを固く握って立っている。 |
JCRRAG_010815 | 国語 | 私は、その男の写真を三葉、見たことがある。
一葉は、その男の、幼年時代、とでも言うべきであろうか、十歳前後かと推定される頃の写真であって、その子供が大勢の女のひとに取りかこまれ、(それは、その子供の姉たち、妹たち、それから、従姉妹たちかと想像される)庭園の池のほとりに、荒い縞の袴をはいて立ち、首を三十度ほど左に傾け、醜く笑っている写真である。醜く? けれども、鈍い人たち(つまり、美醜などに関心を持たぬ人たち)は、面白くも何とも無いような顔をして、
「可愛い坊ちゃんですね」
といい加減なお世辞を言っても、まんざら空お世辞に聞えないくらいの、謂わば通俗の「可愛らしさ」みたいな影もその子供の笑顔に無いわけではないのだが、しかし、いさ... | 私はこれまで、こんな不思議な表情の子供を見た事があったか。 | 私はこれまで、こんな不思議な表情の子供を見た事が、いちども無かった。 |
JCRRAG_010816 | 国語 | 第二葉の写真の顔は、これはまた、びっくりするくらいひどく変貌していた。学生の姿である。高等学校時代の写真か、大学時代の写真か、はっきりしないけれども、とにかく、おそろしく美貌の学生である。しかし、これもまた、不思議にも、生きている人間の感じはしなかった。学生服を着て、胸のポケットから白いハンケチを覗かせ、籐椅子に腰かけて足を組み、そうして、やはり、笑っている。こんどの笑顔は、皺くちゃの猿の笑いでなく、かなり巧みな微笑になってはいるが、しかし、人間の笑いと、どこやら違う。血の重さ、とでも言おうか、生命の渋さ、とでも言おうか、そのような充実感は少しも無く、それこそ、鳥のようではなく、羽毛のように軽く、ただ白紙一枚、そうして、笑っている... | こんどの笑顔は、皺くちゃの猿の笑いでなく、どんな笑いになっているか。 | こんどの笑顔は、皺くちゃの猿の笑いでなく、かなり巧みな微笑になってはいるが、しかし、人間の笑いと、どこやら違う。 |
JCRRAG_010817 | 国語 | 第二葉の写真の顔は、これはまた、びっくりするくらいひどく変貌していた。学生の姿である。高等学校時代の写真か、大学時代の写真か、はっきりしないけれども、とにかく、おそろしく美貌の学生である。しかし、これもまた、不思議にも、生きている人間の感じはしなかった。学生服を着て、胸のポケットから白いハンケチを覗かせ、籐椅子に腰かけて足を組み、そうして、やはり、笑っている。こんどの笑顔は、皺くちゃの猿の笑いでなく、かなり巧みな微笑になってはいるが、しかし、人間の笑いと、どこやら違う。血の重さ、とでも言おうか、生命の渋さ、とでも言おうか、そのような充実感は少しも無く、それこそ、鳥のようではなく、羽毛のように軽く、ただ白紙一枚、そうして、笑っている... | この美貌の学生にも、どのようなものが感ぜられて来るか。 | やはりこの美貌の学生にも、どこか怪談じみた気味悪いものが感ぜられて来るのである。 |
JCRRAG_010818 | 国語 | 第二葉の写真の顔は、これはまた、びっくりするくらいひどく変貌していた。学生の姿である。高等学校時代の写真か、大学時代の写真か、はっきりしないけれども、とにかく、おそろしく美貌の学生である。しかし、これもまた、不思議にも、生きている人間の感じはしなかった。学生服を着て、胸のポケットから白いハンケチを覗かせ、籐椅子に腰かけて足を組み、そうして、やはり、笑っている。こんどの笑顔は、皺くちゃの猿の笑いでなく、かなり巧みな微笑になってはいるが、しかし、人間の笑いと、どこやら違う。血の重さ、とでも言おうか、生命の渋さ、とでも言おうか、そのような充実感は少しも無く、それこそ、鳥のようではなく、羽毛のように軽く、ただ白紙一枚、そうして、笑っている... | 私は、その顔の構造を調べる事が出来たが、どのような印象があったか。 | 私は、つくづくその顔の構造を調べる事が出来たのであるが、額は平凡、額の皺も平凡、眉も平凡、眼も平凡、鼻も口も顎も、ああ、この顔には表情が無いばかりか、印象さえ無い。 |
JCRRAG_010819 | 国語 | 第二葉の写真の顔は、これはまた、びっくりするくらいひどく変貌していた。学生の姿である。高等学校時代の写真か、大学時代の写真か、はっきりしないけれども、とにかく、おそろしく美貌の学生である。しかし、これもまた、不思議にも、生きている人間の感じはしなかった。学生服を着て、胸のポケットから白いハンケチを覗かせ、籐椅子に腰かけて足を組み、そうして、やはり、笑っている。こんどの笑顔は、皺くちゃの猿の笑いでなく、かなり巧みな微笑になってはいるが、しかし、人間の笑いと、どこやら違う。血の重さ、とでも言おうか、生命の渋さ、とでも言おうか、そのような充実感は少しも無く、それこそ、鳥のようではなく、羽毛のように軽く、ただ白紙一枚、そうして、笑っている... | その部屋の主人公の顔の印象は思い出せるか。 | 主人公の部屋の壁や、小さい火鉢は思い出す事が出来るけれども、その部屋の主人公の顔の印象は、すっと霧消して、どうしても、何としても思い出せない。 |
JCRRAG_010820 | 国語 | 恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。しかも、かなり永い間そう思っていたのです。ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちに... | 自分はどのような生涯を送って来ましたか。 | 自分は恥の多い生涯を送って来ました。 |
JCRRAG_010821 | 国語 | 恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。しかも、かなり永い間そう思っていたのです。ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちに... | 自分には、何が、見当つかないのですか。 | 自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。 |
JCRRAG_010822 | 国語 | 恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。しかも、かなり永い間そう思っていたのです。ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちに... | 自分が汽車をはじめて見たのは、どのくらいの時でしたか。 | 自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。 |
JCRRAG_010823 | 国語 | 恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。しかも、かなり永い間そう思っていたのです。ブリッジの上ったり降りたりは、自分にはむしろ、ずいぶん垢抜けのした遊戯で、それは鉄道のサーヴィスの中でも、最も気のきいたサーヴィスの一つだと思っていたのですが、のちに... | 自分は停車場のブリッジを、どのようなものだと思っていましたか。 | 自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。 |
JCRRAG_010824 | 国語 | 自分だって、それは勿論、大いにものを食べますが、しかし、空腹感から、ものを食べた記憶は、ほとんどありません。めずらしいと思われたものを食べます。豪華と思われたものを食べます。また、よそへ行って出されたものも、無理をしてまで、たいてい食べます。そうして、子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、実に、自分の家の食事の時間でした。
自分の田舎の家では、十人くらいの家族全部、めいめいのお膳を二列に向い合せに並べて、末っ子の自分は、もちろん一ばん下の座でしたが、その食事の部屋は薄暗く、昼ごはんの時など、十幾人の家族が、ただ黙々としてめしを食っている有様には、自分はいつも肌寒い思いをしました。それに田舎の昔気質の家でしたので、おかずも、たい... | 自分は空腹感からものを食べた記憶はありますか。 | 自分だって、それは勿論、大いにものを食べますが、しかし、空腹感から、ものを食べた記憶は、ほとんどありません。 |
JCRRAG_010825 | 国語 | 自分だって、それは勿論、大いにものを食べますが、しかし、空腹感から、ものを食べた記憶は、ほとんどありません。めずらしいと思われたものを食べます。豪華と思われたものを食べます。また、よそへ行って出されたものも、無理をしてまで、たいてい食べます。そうして、子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、実に、自分の家の食事の時間でした。
自分の田舎の家では、十人くらいの家族全部、めいめいのお膳を二列に向い合せに並べて、末っ子の自分は、もちろん一ばん下の座でしたが、その食事の部屋は薄暗く、昼ごはんの時など、十幾人の家族が、ただ黙々としてめしを食っている有様には、自分はいつも肌寒い思いをしました。それに田舎の昔気質の家でしたので、おかずも、たい... | 子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、何の時間でしたか。 | 子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、実に、自分の家の食事の時間でした。 |
JCRRAG_010826 | 国語 | 自分には、禍いのかたまりが十個あって、その中の一個でも、隣人が脊負ったら、その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、思った事さえありました。
つまり、わからないのです。隣人の苦しみの性質、程度が、まるで見当つかないのです。プラクテカルな苦しみ、ただ、めしを食えたらそれで解決できる苦しみ、しかし、それこそ最も強い痛苦で、自分の例の十個の禍いなど、吹っ飛んでしまう程の、凄惨な阿鼻地獄なのかも知れない、それは、わからない、しかし、それにしては、よく自殺もせず、発狂もせず、政党を論じ、絶望せず、屈せず生活のたたかいを続けて行ける、苦しくないんじゃないか? エゴイストになりきって、しかもそれを当然の事と確信し、いちども自... | おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、内心はどのようなものでしたか。 | おもてでは、絶えず笑顔をつくりながらも、内心は必死の、それこそ千番に一番の兼ね合いとでもいうべき危機一髪の、油汗流してのサーヴィスでした。 |
JCRRAG_010827 | 国語 | 自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、上野の桜木町に別荘を持っていて、月の大半は東京のその別荘で暮していました。そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした。
いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。父が、こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。
「葉蔵は?」
と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。
何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。どうでもいい、どうせ自... | 父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、何をしましたか。 | 父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめました。 |
JCRRAG_010828 | 国語 | 自分でも、ぎょっとしたほど、陰惨な絵が出来上りました。しかし、これこそ胸底にひた隠しに隠している自分の正体なのだ、おもては陽気に笑い、また人を笑わせているけれども、実は、こんな陰鬱な心を自分は持っているのだ、仕方が無い、とひそかに肯定し、けれどもその絵は、竹一以外の人には、さすがに誰にも見せませんでした。自分のお道化の底の陰惨を見破られ、急にケチくさく警戒せられるのもいやでしたし、また、これを自分の正体とも気づかず、やっぱり新趣向のお道化と見なされ、大笑いの種にせられるかも知れぬという懸念もあり、それは何よりもつらい事でしたので、その絵はすぐに押入れの奥深くしまい込みました。
また、学校の図画の時間にも、自分はあの「お化け式手法... | 自分は、学校の図画の時間にはどのようなタッチで画いていましたか。 | 自分は、学校の図画の時間には「お化け式手法」は秘めて、いままでどおりの美しいものを美しく画く式の凡庸なタッチで画いていました。 |
JCRRAG_010829 | 国語 | 自分でも、ぎょっとしたほど、陰惨な絵が出来上りました。しかし、これこそ胸底にひた隠しに隠している自分の正体なのだ、おもては陽気に笑い、また人を笑わせているけれども、実は、こんな陰鬱な心を自分は持っているのだ、仕方が無い、とひそかに肯定し、けれどもその絵は、竹一以外の人には、さすがに誰にも見せませんでした。自分のお道化の底の陰惨を見破られ、急にケチくさく警戒せられるのもいやでしたし、また、これを自分の正体とも気づかず、やっぱり新趣向のお道化と見なされ、大笑いの種にせられるかも知れぬという懸念もあり、それは何よりもつらい事でしたので、その絵はすぐに押入れの奥深くしまい込みました。
また、学校の図画の時間にも、自分はあの「お化け式手法... | 自分は、出来上がった陰惨な絵をどこにしまいましたか。 | 自分は、出来上がった陰惨な絵を、すぐに押入れの奥深くしまい込みました。 |
JCRRAG_010830 | 国語 | 父は議会の無い時は、月に一週間か二週間しかその家に滞在していませんでしたので、父の留守の時は、かなり広いその家に、別荘番の老夫婦と自分と三人だけで、自分は、ちょいちょい学校を休んで、さりとて東京見物などをする気も起らず(自分はとうとう、明治神宮も、楠正成の銅像も、泉岳寺の四十七士の墓も見ずに終りそうです)家で一日中、本を読んだり、絵をかいたりしていました。父が上京して来ると、自分は、毎朝そそくさと登校するのでしたが、しかし、本郷千駄木町の洋画家、安田新太郎氏の画塾に行き、三時間も四時間も、デッサンの練習をしている事もあったのです。高等学校の寮から脱けたら、学校の授業に出ても、自分はまるで聴講生みたいな特別の位置にいるような、それは... | 自分がとうとう行けずに終わりそうと思ったのは、どんな場所ですか。 | 自分がとうとう行けずに終わりそうと思ったのは、明治神宮、楠正成の銅像、泉岳寺の四十七士の墓です。 |
JCRRAG_010831 | 国語 | 自分だって、それは勿論、大いにものを食べますが、しかし、空腹感から、ものを食べた記憶は、ほとんどありません。めずらしいと思われたものを食べます。豪華と思われたものを食べます。また、よそへ行って出されたものも、無理をしてまで、たいてい食べます。そうして、子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、実に、自分の家の食事の時間でした。
自分の田舎の家では、十人くらいの家族全部、めいめいのお膳を二列に向い合せに並べて、末っ子の自分は、もちろん一ばん下の座でしたが、その食事の部屋は薄暗く、昼ごはんの時など、十幾人の家族が、ただ黙々としてめしを食っている有様には、自分はいつも肌寒い思いをしました。それに田舎の昔気質の家でしたので、おかずも、たい... | 昼ごはんの時など、十幾人の家族が、ただ黙々としてめしを食っている有様に、自分はどのような思いをしていましたか。 | 昼ごはんの時など、十幾人の家族が、ただ黙々としてめしを食っている有様には、自分はいつも肌寒い思いをしました。 |
JCRRAG_010832 | 国語 | 自分だって、それは勿論、大いにものを食べますが、しかし、空腹感から、ものを食べた記憶は、ほとんどありません。めずらしいと思われたものを食べます。豪華と思われたものを食べます。また、よそへ行って出されたものも、無理をしてまで、たいてい食べます。そうして、子供の頃の自分にとって、最も苦痛な時刻は、実に、自分の家の食事の時間でした。
自分の田舎の家では、十人くらいの家族全部、めいめいのお膳を二列に向い合せに並べて、末っ子の自分は、もちろん一ばん下の座でしたが、その食事の部屋は薄暗く、昼ごはんの時など、十幾人の家族が、ただ黙々としてめしを食っている有様には、自分はいつも肌寒い思いをしました。それに田舎の昔気質の家でしたので、おかずも、たい... | 自分は食事の時間をどのようなものと考えた事がありましたか。 | 自分はその薄暗い部屋の末席に、寒さにがたがた震える思いで口にごはんを少量ずつ運び、押し込み、人間は、どうして一日に三度々々ごはんを食べるのだろう、実にみな厳粛な顔をして食べている、これも一種の儀式のようなもので、家族が日に三度々々、時刻をきめて薄暗い一部屋に集り、お膳を順序正しく並べ、食べたくなくても無言でごはんを噛みながら、うつむき、家中にうごめいている霊たちに祈るためのものかも知れない、とさえ考えた事があるくらいでした。 |
JCRRAG_010833 | 国語 | 自分には、禍いのかたまりが十個あって、その中の一個でも、隣人が脊負ったら、その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、思った事さえありました。
つまり、わからないのです。隣人の苦しみの性質、程度が、まるで見当つかないのです。プラクテカルな苦しみ、ただ、めしを食えたらそれで解決できる苦しみ、しかし、それこそ最も強い痛苦で、自分の例の十個の禍いなど、吹っ飛んでしまう程の、凄惨な阿鼻地獄なのかも知れない、それは、わからない、しかし、それにしては、よく自殺もせず、発狂もせず、政党を論じ、絶望せず、屈せず生活のたたかいを続けて行ける、苦しくないんじゃないか? エゴイストになりきって、しかもそれを当然の事と確信し、いちども自... | 自分には、禍いのかたまりが十個あって、その中の一個でも、隣人が脊負ったら、どのようになると思った事がありますか。 | 自分には、禍いのかたまりが十個あって、その中の一個でも、隣人が脊負ったら、その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、思った事さえありました。 |
JCRRAG_010834 | 国語 | 自分には、禍いのかたまりが十個あって、その中の一個でも、隣人が脊負ったら、その一個だけでも充分に隣人の生命取りになるのではあるまいかと、思った事さえありました。
つまり、わからないのです。隣人の苦しみの性質、程度が、まるで見当つかないのです。プラクテカルな苦しみ、ただ、めしを食えたらそれで解決できる苦しみ、しかし、それこそ最も強い痛苦で、自分の例の十個の禍いなど、吹っ飛んでしまう程の、凄惨な阿鼻地獄なのかも知れない、それは、わからない、しかし、それにしては、よく自殺もせず、発狂もせず、政党を論じ、絶望せず、屈せず生活のたたかいを続けて行ける、苦しくないんじゃないか? エゴイストになりきって、しかもそれを当然の事と確信し、いちども自... | 自分は隣人と、会話が出来ますか。 | 自分は隣人と、ほとんど会話が出来ません。 |
JCRRAG_010835 | 国語 | 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、彼等がどんなに苦しく、またどんな事を考えて生きているのか、まるでちっとも見当つかず、ただおそろしく、その気まずさに堪える事が出来ず、既に道化の上手になっていました。つまり、自分は、いつのまにやら、一言も本当の事を言わない子になっていたのです。
その頃の、家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、他の者たちは皆まじめな顔をしているのに、自分ひとり、必ず奇妙に顔をゆがめて笑っているのです。これもまた、自分の幼く悲しい道化の一種でした。
また自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はいちども有りませんでした。そのわずかなおこごとは、自分には霹靂の如く強く感ぜられ、狂うみたいにな... | 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対して、どのような感情があり、道化の上手になっていましたか。 | 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、彼等がどんなに苦しく、またどんな事を考えて生きているのか、まるでちっとも見当つかず、ただおそろしく、その気まずさに堪える事が出来ず、既に道化の上手になっていました。 |
JCRRAG_010836 | 国語 | 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、彼等がどんなに苦しく、またどんな事を考えて生きているのか、まるでちっとも見当つかず、ただおそろしく、その気まずさに堪える事が出来ず、既に道化の上手になっていました。つまり、自分は、いつのまにやら、一言も本当の事を言わない子になっていたのです。
その頃の、家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、他の者たちは皆まじめな顔をしているのに、自分ひとり、必ず奇妙に顔をゆがめて笑っているのです。これもまた、自分の幼く悲しい道化の一種でした。
また自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はいちども有りませんでした。そのわずかなおこごとは、自分には霹靂の如く強く感ぜられ、狂うみたいにな... | 家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、自分は、どのような表情をしていましたか。 | 家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、他の者たちは皆まじめな顔をしているのに、自分ひとり、必ず奇妙に顔をゆがめて笑っているのです。 |
JCRRAG_010837 | 国語 | 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、彼等がどんなに苦しく、またどんな事を考えて生きているのか、まるでちっとも見当つかず、ただおそろしく、その気まずさに堪える事が出来ず、既に道化の上手になっていました。つまり、自分は、いつのまにやら、一言も本当の事を言わない子になっていたのです。
その頃の、家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、他の者たちは皆まじめな顔をしているのに、自分ひとり、必ず奇妙に顔をゆがめて笑っているのです。これもまた、自分の幼く悲しい道化の一種でした。
また自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はいちども有りませんでした。そのわずかなおこごとは、自分には霹靂の如く強く感ぜられ、狂うみたいにな... | 自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はありましたか。 | 自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はいちども有りませんでした。 |
JCRRAG_010838 | 国語 | 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、彼等がどんなに苦しく、またどんな事を考えて生きているのか、まるでちっとも見当つかず、ただおそろしく、その気まずさに堪える事が出来ず、既に道化の上手になっていました。つまり、自分は、いつのまにやら、一言も本当の事を言わない子になっていたのです。
その頃の、家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、他の者たちは皆まじめな顔をしているのに、自分ひとり、必ず奇妙に顔をゆがめて笑っているのです。これもまた、自分の幼く悲しい道化の一種でした。
また自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はいちども有りませんでした。そのわずかなおこごとは、自分には霹靂の如く強く感ぜられ、狂うみたいにな... | 自分には、言い争いや自己弁解は出来ましたか。 | 自分には、言い争いも自己弁解も出来ませんでした。 |
JCRRAG_010839 | 国語 | 自分は子供の頃から、自分の家族の者たちに対してさえ、彼等がどんなに苦しく、またどんな事を考えて生きているのか、まるでちっとも見当つかず、ただおそろしく、その気まずさに堪える事が出来ず、既に道化の上手になっていました。つまり、自分は、いつのまにやら、一言も本当の事を言わない子になっていたのです。
その頃の、家族たちと一緒にうつした写真などを見ると、他の者たちは皆まじめな顔をしているのに、自分ひとり、必ず奇妙に顔をゆがめて笑っているのです。これもまた、自分の幼く悲しい道化の一種でした。
また自分は、肉親たちに何か言われて、口応えした事はいちども有りませんでした。そのわずかなおこごとは、自分には霹靂の如く強く感ぜられ、狂うみたいにな... | 人から悪く言われると、どのような感情がありますか。 | 人から悪く言われると、いかにも、もっとも、自分がひどい思い違いをしているような気がして来て、いつもその攻撃を黙して受け、内心、狂うほどの恐怖を感じました。 |
JCRRAG_010840 | 国語 | 自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、上野の桜木町に別荘を持っていて、月の大半は東京のその別荘で暮していました。そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした。
いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。父が、こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。
「葉蔵は?」
と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。
何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。どうでもいい、どうせ自... | 自分の父は、月の大半はどこで暮していましたか。 | 自分の父は、月の大半は上野の桜木町に別荘を持っていて、その別荘で暮していました。 |
JCRRAG_010841 | 国語 | 自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、上野の桜木町に別荘を持っていて、月の大半は東京のその別荘で暮していました。そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした。
いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。父が、こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。
「葉蔵は?」
と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。
何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。どうでもいい、どうせ自... | 帰る時には誰に何をするのが、父の趣味でしたか。 | 帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした。 |
JCRRAG_010842 | 国語 | 自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、上野の桜木町に別荘を持っていて、月の大半は東京のその別荘で暮していました。そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした。
いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。父が、こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。
「葉蔵は?」
と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。
何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。どうでもいい、どうせ自... | 父の上京の前夜、子供たちを客間に集め、何をしましたか。 | 父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。 |
JCRRAG_010843 | 国語 | 自分の父は、東京に用事の多いひとでしたので、上野の桜木町に別荘を持っていて、月の大半は東京のその別荘で暮していました。そうして帰る時には家族の者たち、また親戚の者たちにまで、実におびただしくお土産を買って来るのが、まあ、父の趣味みたいなものでした。
いつかの父の上京の前夜、父は子供たちを客間に集め、こんど帰る時には、どんなお土産がいいか、一人々々に笑いながら尋ね、それに対する子供たちの答をいちいち手帖に書きとめるのでした。父が、こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。
「葉蔵は?」
と聞かれて、自分は、口ごもってしまいました。
何が欲しいと聞かれると、とたんに、何も欲しくなくなるのでした。どうでもいい、どうせ自... | 父が、子供たちと親しくするのは、めずらしい事ですか。 | 父が、こんなに子供たちと親しくするのは、めずらしい事でした。 |
JCRRAG_010844 | 国語 | 「仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開いてみたら、これ、ここに、シシマイ、と書いてある。これは、私の字ではない。はてな? と首をかしげて、思い当りました。これは、葉蔵のいたずらですよ。あいつは、私が聞いた時には、にやにやして黙っていたが、あとで、どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。何せ、どうも、あれは、変った坊主ですからね。知らん振りして、ちゃんと書いている。そんなに欲しかったのなら、そう言えばよいのに。私は、おもちゃ屋の店先で笑いましたよ。葉蔵を早くここへ呼びなさい」
また一方、自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、下男のひとりに滅茶苦茶にピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、その家には、たいていのものが、そ... | 仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開くと、何と書いてありましたか。 | 仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開いてみたら、これ、ここに、シシマイ、と書いてありました。 |
JCRRAG_010845 | 国語 | 「仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開いてみたら、これ、ここに、シシマイ、と書いてある。これは、私の字ではない。はてな? と首をかしげて、思い当りました。これは、葉蔵のいたずらですよ。あいつは、私が聞いた時には、にやにやして黙っていたが、あとで、どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。何せ、どうも、あれは、変った坊主ですからね。知らん振りして、ちゃんと書いている。そんなに欲しかったのなら、そう言えばよいのに。私は、おもちゃ屋の店先で笑いましたよ。葉蔵を早くここへ呼びなさい」
また一方、自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、下男のひとりに滅茶苦茶にピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、その家には、たいていのものが、そ... | 私が聞いた時には、あいつはどのような反応をしていたか。 | 私が聞いた時には、あいつはにやにやして黙っていたが、あとで、どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。 |
JCRRAG_010846 | 国語 | 「仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開いてみたら、これ、ここに、シシマイ、と書いてある。これは、私の字ではない。はてな? と首をかしげて、思い当りました。これは、葉蔵のいたずらですよ。あいつは、私が聞いた時には、にやにやして黙っていたが、あとで、どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。何せ、どうも、あれは、変った坊主ですからね。知らん振りして、ちゃんと書いている。そんなに欲しかったのなら、そう言えばよいのに。私は、おもちゃ屋の店先で笑いましたよ。葉蔵を早くここへ呼びなさい」
また一方、自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、下男のひとりに滅茶苦茶にピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、その家には、たいていのものが、そ... | 自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、何をして皆を大笑いさせましたか。 | 自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、下男のひとりに滅茶苦茶にピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、その家には、たいていのものが、そろっていました)自分はその出鱈目の曲に合せて、インデヤンの踊りを踊って見せて、皆を大笑いさせました。 |
JCRRAG_010847 | 国語 | 「仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開いてみたら、これ、ここに、シシマイ、と書いてある。これは、私の字ではない。はてな? と首をかしげて、思い当りました。これは、葉蔵のいたずらですよ。あいつは、私が聞いた時には、にやにやして黙っていたが、あとで、どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。何せ、どうも、あれは、変った坊主ですからね。知らん振りして、ちゃんと書いている。そんなに欲しかったのなら、そう言えばよいのに。私は、おもちゃ屋の店先で笑いましたよ。葉蔵を早くここへ呼びなさい」
また一方、自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、下男のひとりに滅茶苦茶にピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、その家には、たいていのものが、そ... | 自分のインデヤン踊りを撮影して、その写真が出来たのを見ると、なぜ家中が大笑いとなったのですか。 | 自分のインデヤン踊りを撮影して、その写真が出来たのを見ると、自分の腰布(それは更紗の風呂敷でした)の合せ目から、小さいおチンポが見えていたので、これがまた家中の大笑いでした。 |
JCRRAG_010848 | 国語 | 「仲店のおもちゃ屋で、この手帖を開いてみたら、これ、ここに、シシマイ、と書いてある。これは、私の字ではない。はてな? と首をかしげて、思い当りました。これは、葉蔵のいたずらですよ。あいつは、私が聞いた時には、にやにやして黙っていたが、あとで、どうしてもお獅子が欲しくてたまらなくなったんだね。何せ、どうも、あれは、変った坊主ですからね。知らん振りして、ちゃんと書いている。そんなに欲しかったのなら、そう言えばよいのに。私は、おもちゃ屋の店先で笑いましたよ。葉蔵を早くここへ呼びなさい」
また一方、自分は、下男や下女たちを洋室に集めて、下男のひとりに滅茶苦茶にピアノのキイをたたかせ、(田舎ではありましたが、その家には、たいていのものが、そ... | 自分にとって、この結果はどうでしたか。 | 自分にとって、これまた意外の成功というべきものだったかも知れません。 |
JCRRAG_010849 | 国語 | 自分は毎月、新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいましたので、メチャラクチャラ博士だの、また、ナンジャモンジャ博士などとは、たいへんな馴染で、また、怪談、講談、落語、江戸小咄などの類にも、かなり通じていましたから、剽軽な事をまじめな顔をして言って、家の者たちを笑わせるのには事を欠きませんでした。
しかし、嗚呼、学校!
自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです。尊敬されるという観念もまた、甚だ自分を、おびえさせました。ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、或るひとりの全知全能の者に見破られ、木っ葉みじんにやられて、死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが、「尊敬さ... | 自分は毎月、どのような本を読んでいましたか。 | 自分は毎月、新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいました |
JCRRAG_010850 | 国語 | 自分は毎月、新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいましたので、メチャラクチャラ博士だの、また、ナンジャモンジャ博士などとは、たいへんな馴染で、また、怪談、講談、落語、江戸小咄などの類にも、かなり通じていましたから、剽軽な事をまじめな顔をして言って、家の者たちを笑わせるのには事を欠きませんでした。
しかし、嗚呼、学校!
自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです。尊敬されるという観念もまた、甚だ自分を、おびえさせました。ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、或るひとりの全知全能の者に見破られ、木っ葉みじんにやられて、死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが、「尊敬さ... | 自分はどのような類に通じていましたか。 | 自分は怪談、講談、落語、江戸小咄などの類にも、かなり通じていました |
JCRRAG_010851 | 国語 | 自分は毎月、新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいましたので、メチャラクチャラ博士だの、また、ナンジャモンジャ博士などとは、たいへんな馴染で、また、怪談、講談、落語、江戸小咄などの類にも、かなり通じていましたから、剽軽な事をまじめな顔をして言って、家の者たちを笑わせるのには事を欠きませんでした。
しかし、嗚呼、学校!
自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです。尊敬されるという観念もまた、甚だ自分を、おびえさせました。ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、或るひとりの全知全能の者に見破られ、木っ葉みじんにやられて、死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが、「尊敬さ... | 尊敬されるという観念に対して、自分はどのような反応がありましたか。 | 尊敬されるという観念もまた、甚だ自分を、おびえさせました。 |
JCRRAG_010852 | 国語 | 自分は毎月、新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいましたので、メチャラクチャラ博士だの、また、ナンジャモンジャ博士などとは、たいへんな馴染で、また、怪談、講談、落語、江戸小咄などの類にも、かなり通じていましたから、剽軽な事をまじめな顔をして言って、家の者たちを笑わせるのには事を欠きませんでした。
しかし、嗚呼、学校!
自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです。尊敬されるという観念もまた、甚だ自分を、おびえさせました。ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、或るひとりの全知全能の者に見破られ、木っ葉みじんにやられて、死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが、「尊敬さ... | 自分は、金持ちの家に生れたという事よりも、どのようなことによって、学校中の尊敬を得そうになりましたか。 | 自分は、金持ちの家に生れたという事よりも、俗にいう「できる」事に依って、学校中の尊敬を得そうになりました。 |
JCRRAG_010853 | 国語 | 自分は毎月、新刊の少年雑誌を十冊以上も、とっていて、またその他にも、さまざまの本を東京から取り寄せて黙って読んでいましたので、メチャラクチャラ博士だの、また、ナンジャモンジャ博士などとは、たいへんな馴染で、また、怪談、講談、落語、江戸小咄などの類にも、かなり通じていましたから、剽軽な事をまじめな顔をして言って、家の者たちを笑わせるのには事を欠きませんでした。
しかし、嗚呼、学校!
自分は、そこでは、尊敬されかけていたのです。尊敬されるという観念もまた、甚だ自分を、おびえさせました。ほとんど完全に近く人をだまして、そうして、或るひとりの全知全能の者に見破られ、木っ葉みじんにやられて、死ぬる以上の赤恥をかかせられる、それが、「尊敬さ... | 自分は、子供の頃から病弱で、どのくらい学校を休むことがありましたか。 | 自分は、子供の頃から病弱で、よく一つき二つき、また一学年ちかくも寝込んで学校を休んだ事さえあった。 |
JCRRAG_010854 | 国語 | お茶目。
自分は、所謂お茶目に見られる事に成功しました。尊敬される事から、のがれる事に成功しました。通信簿は全学科とも十点でしたが、操行というものだけは、七点だったり、六点だったりして、それもまた家中の大笑いの種でした。
けれども自分の本性は、そんなお茶目さんなどとは、凡そ対蹠的なものでした。その頃、既に自分は、女中や下男から、哀しい事を教えられ、犯されていました。幼少の者に対して、そのような事を行うのは、人間の行い得る犯罪の中で最も醜悪で下等で、残酷な犯罪だと、自分はいまでは思っています。しかし、自分は、忍びました。これでまた一つ、人間の特質を見たというような気持さえして、そうして、力無く笑っていました。もし自分に、本当の事... | 自分は、どのように見られる事に成功しましたか。 | 自分は、所謂お茶目に見られる事に成功しました。 |
JCRRAG_010855 | 国語 | お茶目。
自分は、所謂お茶目に見られる事に成功しました。尊敬される事から、のがれる事に成功しました。通信簿は全学科とも十点でしたが、操行というものだけは、七点だったり、六点だったりして、それもまた家中の大笑いの種でした。
けれども自分の本性は、そんなお茶目さんなどとは、凡そ対蹠的なものでした。その頃、既に自分は、女中や下男から、哀しい事を教えられ、犯されていました。幼少の者に対して、そのような事を行うのは、人間の行い得る犯罪の中で最も醜悪で下等で、残酷な犯罪だと、自分はいまでは思っています。しかし、自分は、忍びました。これでまた一つ、人間の特質を見たというような気持さえして、そうして、力無く笑っていました。もし自分に、本当の事... | 自分は何からのがれる事に成功しましたか。 | 自分は、尊敬される事から、のがれる事に成功しました。 |
JCRRAG_010856 | 国語 | お茶目。
自分は、所謂お茶目に見られる事に成功しました。尊敬される事から、のがれる事に成功しました。通信簿は全学科とも十点でしたが、操行というものだけは、七点だったり、六点だったりして、それもまた家中の大笑いの種でした。
けれども自分の本性は、そんなお茶目さんなどとは、凡そ対蹠的なものでした。その頃、既に自分は、女中や下男から、哀しい事を教えられ、犯されていました。幼少の者に対して、そのような事を行うのは、人間の行い得る犯罪の中で最も醜悪で下等で、残酷な犯罪だと、自分はいまでは思っています。しかし、自分は、忍びました。これでまた一つ、人間の特質を見たというような気持さえして、そうして、力無く笑っていました。もし自分に、本当の事... | 通信簿は全学科とも十点でしたが、操行というものはどうでしたか。 | 通信簿は全学科とも十点でしたが、操行というものだけは、七点だったり、六点だったりして、それもまた家中の大笑いの種でした。 |
JCRRAG_010857 | 国語 | お茶目。
自分は、所謂お茶目に見られる事に成功しました。尊敬される事から、のがれる事に成功しました。通信簿は全学科とも十点でしたが、操行というものだけは、七点だったり、六点だったりして、それもまた家中の大笑いの種でした。
けれども自分の本性は、そんなお茶目さんなどとは、凡そ対蹠的なものでした。その頃、既に自分は、女中や下男から、哀しい事を教えられ、犯されていました。幼少の者に対して、そのような事を行うのは、人間の行い得る犯罪の中で最も醜悪で下等で、残酷な犯罪だと、自分はいまでは思っています。しかし、自分は、忍びました。これでまた一つ、人間の特質を見たというような気持さえして、そうして、力無く笑っていました。もし自分に、本当の事... | 自分が少しも期待できなかったこととはなんですか。 | 自分が少しも期待できなかったことは人間に訴える、その手段には少しも期待できませんでした。 |
JCRRAG_010858 | 国語 | お茶目。
自分は、所謂お茶目に見られる事に成功しました。尊敬される事から、のがれる事に成功しました。通信簿は全学科とも十点でしたが、操行というものだけは、七点だったり、六点だったりして、それもまた家中の大笑いの種でした。
けれども自分の本性は、そんなお茶目さんなどとは、凡そ対蹠的なものでした。その頃、既に自分は、女中や下男から、哀しい事を教えられ、犯されていました。幼少の者に対して、そのような事を行うのは、人間の行い得る犯罪の中で最も醜悪で下等で、残酷な犯罪だと、自分はいまでは思っています。しかし、自分は、忍びました。これでまた一つ、人間の特質を見たというような気持さえして、そうして、力無く笑っていました。もし自分に、本当の事... | 自分は、女性にとって、どのような男でありましたか。 | 自分は、女性にとって、恋の秘密を守れる男であったというわけなのでした。 |
JCRRAG_010859 | 国語 | 自分でも、ぎょっとしたほど、陰惨な絵が出来上りました。しかし、これこそ胸底にひた隠しに隠している自分の正体なのだ、おもては陽気に笑い、また人を笑わせているけれども、実は、こんな陰鬱な心を自分は持っているのだ、仕方が無い、とひそかに肯定し、けれどもその絵は、竹一以外の人には、さすがに誰にも見せませんでした。自分のお道化の底の陰惨を見破られ、急にケチくさく警戒せられるのもいやでしたし、また、これを自分の正体とも気づかず、やっぱり新趣向のお道化と見なされ、大笑いの種にせられるかも知れぬという懸念もあり、それは何よりもつらい事でしたので、その絵はすぐに押入れの奥深くしまい込みました。
また、学校の図画の時間にも、自分はあの「お化け式手法... | どのような絵が出来上りましたか。 | 自分でも、ぎょっとしたほど、陰惨な絵が出来上りました。 |
JCRRAG_010860 | 国語 | 自分でも、ぎょっとしたほど、陰惨な絵が出来上りました。しかし、これこそ胸底にひた隠しに隠している自分の正体なのだ、おもては陽気に笑い、また人を笑わせているけれども、実は、こんな陰鬱な心を自分は持っているのだ、仕方が無い、とひそかに肯定し、けれどもその絵は、竹一以外の人には、さすがに誰にも見せませんでした。自分のお道化の底の陰惨を見破られ、急にケチくさく警戒せられるのもいやでしたし、また、これを自分の正体とも気づかず、やっぱり新趣向のお道化と見なされ、大笑いの種にせられるかも知れぬという懸念もあり、それは何よりもつらい事でしたので、その絵はすぐに押入れの奥深くしまい込みました。
また、学校の図画の時間にも、自分はあの「お化け式手法... | 自分はどのようなことを懸念して、絵を押入れの奥深くにしまい込みましたか。 | 自分が懸念したのは、お道化の底の陰惨を見破られ、急にケチくさく警戒せられるのもいやでしたし、また、これを自分の正体とも気づかず、やっぱり新趣向のお道化と見なされ、大笑いの種にせられるかも知れぬという懸念もあり、それは何よりもつらい事でしたので、その絵はすぐに押入れの奥深くしまい込みました。 |
JCRRAG_010861 | 国語 | 自分は、やがて画塾で、或る画学生から、酒と煙草と淫売婦と質屋と左翼思想とを知らされました。妙な取合せでしたが、しかし、それは事実でした。
その画学生は、堀木正雄といって、東京の下町に生れ、自分より六つ年長者で、私立の美術学校を卒業して、家にアトリエが無いので、この画塾に通い、洋画の勉強をつづけているのだそうです。
「五円、貸してくれないか」
お互いただ顔を見知っているだけで、それまで一言も話合った事が無かったのです。自分は、へどもどして五円差し出しました。
「よし、飲もう。おれが、お前におごるんだ。よかチゴじゃのう」
自分は拒否し切れず、その画塾の近くの、蓬莱町のカフエに引っぱって行かれたのが、彼との交友のはじまりでした。
... | その画学生はどのような人物だったのですか。 | その画学生は、堀木正雄といって、東京の下町に生れ、自分より六つ年長者で、私立の美術学校を卒業して、家にアトリエが無いので、この画塾に通い、洋画の勉強をつづけているのだそうです。 |
JCRRAG_010862 | 国語 | 自分は、やがて画塾で、或る画学生から、酒と煙草と淫売婦と質屋と左翼思想とを知らされました。妙な取合せでしたが、しかし、それは事実でした。
その画学生は、堀木正雄といって、東京の下町に生れ、自分より六つ年長者で、私立の美術学校を卒業して、家にアトリエが無いので、この画塾に通い、洋画の勉強をつづけているのだそうです。
「五円、貸してくれないか」
お互いただ顔を見知っているだけで、それまで一言も話合った事が無かったのです。自分は、へどもどして五円差し出しました。
「よし、飲もう。おれが、お前におごるんだ。よかチゴじゃのう」
自分は拒否し切れず、その画塾の近くの、蓬莱町のカフエに引っぱって行かれたのが、彼との交友のはじまりでした。
... | 堀木正雄との交友のはじまりはどのような出来事でしたか。 | 彼との交友のはじまりは、彼の言葉に自分は拒否し切れず、その画塾の近くの、蓬莱町のカフエに引っぱって行かれたことでした。 |
JCRRAG_010863 | 国語 | 自分は、やがて画塾で、或る画学生から、酒と煙草と淫売婦と質屋と左翼思想とを知らされました。妙な取合せでしたが、しかし、それは事実でした。
その画学生は、堀木正雄といって、東京の下町に生れ、自分より六つ年長者で、私立の美術学校を卒業して、家にアトリエが無いので、この画塾に通い、洋画の勉強をつづけているのだそうです。
「五円、貸してくれないか」
お互いただ顔を見知っているだけで、それまで一言も話合った事が無かったのです。自分は、へどもどして五円差し出しました。
「よし、飲もう。おれが、お前におごるんだ。よかチゴじゃのう」
自分は拒否し切れず、その画塾の近くの、蓬莱町のカフエに引っぱって行かれたのが、彼との交友のはじまりでした。
... | 堀木の見た目には、どのような特徴がありましたか。 | 堀木は、色が浅黒く端正な顔をしていて、画学生には珍らしく、ちゃんとした脊広を着て、ネクタイの好みも地味で、そうして頭髪もポマードをつけてまん中からぺったりとわけていました。 |
JCRRAG_010864 | 国語 | 自分は、やがて画塾で、或る画学生から、酒と煙草と淫売婦と質屋と左翼思想とを知らされました。妙な取合せでしたが、しかし、それは事実でした。
その画学生は、堀木正雄といって、東京の下町に生れ、自分より六つ年長者で、私立の美術学校を卒業して、家にアトリエが無いので、この画塾に通い、洋画の勉強をつづけているのだそうです。
「五円、貸してくれないか」
お互いただ顔を見知っているだけで、それまで一言も話合った事が無かったのです。自分は、へどもどして五円差し出しました。
「よし、飲もう。おれが、お前におごるんだ。よかチゴじゃのう」
自分は拒否し切れず、その画塾の近くの、蓬莱町のカフエに引っぱって行かれたのが、彼との交友のはじまりでした。
... | 自分と本質的に異色のところだと考える堀木の特徴はなんですか。 | 自分と本質的に異色のところだと考える彼の特徴は、彼はそのお道化を意識せずに行い、しかも、そのお道化の悲惨に全く気がついていないところです。 |
JCRRAG_010865 | 国語 | ただ遊ぶだけだ、遊びの相手として附合っているだけだ、とつねに彼を軽蔑し、時には彼との交友を恥ずかしくさえ思いながら、彼と連れ立って歩いているうちに、結局、自分は、この男にさえ打ち破られました。
しかし、はじめは、この男を好人物、まれに見る好人物とばかり思い込み、さすが人間恐怖の自分も全く油断をして、東京のよい案内者が出来た、くらいに思っていました。自分は、実は、ひとりでは、電車に乗ると車掌がおそろしく、歌舞伎座へはいりたくても、あの正面玄関の緋の絨緞が敷かれてある階段の両側に並んで立っている案内嬢たちがおそろしく、レストランへはいると、自分の背後にひっそり立って、皿のあくのを待っている給仕のボーイがおそろしく、殊にも勘定を払う時... | 自分はなぜ、一日一ぱい家の中で、ごろごろしていたことが多いのか。 | 自分は、実は、ひとりでは、電車に乗ると車掌がおそろしく、歌舞伎座へはいりたくても、あの正面玄関の緋の絨緞が敷かれてある階段の両側に並んで立っている案内嬢たちがおそろしく、レストランへはいると、自分の背後にひっそり立って、皿のあくのを待っている給仕のボーイがおそろしく、殊にも勘定を払う時、ああ、ぎごちない自分の手つき、自分は買い物をしてお金を手渡す時には、吝嗇ゆえでなく、あまりの緊張、あまりの恥ずかしさ、あまりの不安、恐怖に、くらくら目まいして、世界が真暗になり、ほとんど半狂乱の気持になってしまって、値切るどころか、お釣を受け取るのを忘れるばかりでなく、買った品物を持ち帰るのを忘れた事さえ、しばしばあったほどなので、とても、ひとりで東... |
JCRRAG_010866 | 国語 | ただ遊ぶだけだ、遊びの相手として附合っているだけだ、とつねに彼を軽蔑し、時には彼との交友を恥ずかしくさえ思いながら、彼と連れ立って歩いているうちに、結局、自分は、この男にさえ打ち破られました。
しかし、はじめは、この男を好人物、まれに見る好人物とばかり思い込み、さすが人間恐怖の自分も全く油断をして、東京のよい案内者が出来た、くらいに思っていました。自分は、実は、ひとりでは、電車に乗ると車掌がおそろしく、歌舞伎座へはいりたくても、あの正面玄関の緋の絨緞が敷かれてある階段の両側に並んで立っている案内嬢たちがおそろしく、レストランへはいると、自分の背後にひっそり立って、皿のあくのを待っている給仕のボーイがおそろしく、殊にも勘定を払う時... | 堀木は勘定に就いて自分に、不安、恐怖を覚えさせた事がありましたか。 | 堀木は勘定に就いては自分に、一つも不安、恐怖を覚えさせた事がありませんでした。 |
JCRRAG_010867 | 国語 | ただ遊ぶだけだ、遊びの相手として附合っているだけだ、とつねに彼を軽蔑し、時には彼との交友を恥ずかしくさえ思いながら、彼と連れ立って歩いているうちに、結局、自分は、この男にさえ打ち破られました。
しかし、はじめは、この男を好人物、まれに見る好人物とばかり思い込み、さすが人間恐怖の自分も全く油断をして、東京のよい案内者が出来た、くらいに思っていました。自分は、実は、ひとりでは、電車に乗ると車掌がおそろしく、歌舞伎座へはいりたくても、あの正面玄関の緋の絨緞が敷かれてある階段の両側に並んで立っている案内嬢たちがおそろしく、レストランへはいると、自分の背後にひっそり立って、皿のあくのを待っている給仕のボーイがおそろしく、殊にも勘定を払う時... | 堀木は、酔いの早く発するのは、何と話しているか。 | 堀木は、酔いの早く発するのは、電気ブランの右に出るものはないと話した。 |
JCRRAG_010868 | 国語 | ただ遊ぶだけだ、遊びの相手として附合っているだけだ、とつねに彼を軽蔑し、時には彼との交友を恥ずかしくさえ思いながら、彼と連れ立って歩いているうちに、結局、自分は、この男にさえ打ち破られました。
しかし、はじめは、この男を好人物、まれに見る好人物とばかり思い込み、さすが人間恐怖の自分も全く油断をして、東京のよい案内者が出来た、くらいに思っていました。自分は、実は、ひとりでは、電車に乗ると車掌がおそろしく、歌舞伎座へはいりたくても、あの正面玄関の緋の絨緞が敷かれてある階段の両側に並んで立っている案内嬢たちがおそろしく、レストランへはいると、自分の背後にひっそり立って、皿のあくのを待っている給仕のボーイがおそろしく、殊にも勘定を払う時... | 堀木と附合って救われるのは、どのようなところですか。 | 堀木と附合って救われるのは、堀木が聞き手の思惑などをてんで無視して、その所謂情熱の噴出するがままに、(或いは、情熱とは、相手の立場を無視する事かも知れませんが)四六時中、くだらないおしゃべりを続け、あの、二人で歩いて疲れ、気まずい沈黙におちいる危懼が、全く無いという事でした。 |
JCRRAG_010869 | 国語 | 酒、煙草、淫売婦、それは皆、人間恐怖を、たとい一時でも、まぎらす事の出来るずいぶんよい手段である事が、やがて自分にもわかって来ました。それらの手段を求めるためには、自分の持ち物全部を売却しても悔いない気持さえ、抱くようになりました。
自分には、淫売婦というものが、人間でも、女性でもない、白痴か狂人のように見え、そのふところの中で、自分はかえって全く安心して、ぐっすり眠る事が出来ました。みんな、哀しいくらい、実にみじんも慾というものが無いのでした。そうして、自分に、同類の親和感とでもいったようなものを覚えるのか、自分は、いつも、その淫売婦たちから、窮屈でない程度の自然の好意を示されました。何の打算も無い好意、押し売りでは無い好意、... | 自分が人間恐怖をまぎらす事の出来るよい手段である事だとわかって来たのはなんですか。 | 自分が人間恐怖をまぎらす事の出来るよい手段である事だとわかって来たのは、酒、煙草、淫売婦です。 |
JCRRAG_010870 | 国語 | 酒、煙草、淫売婦、それは皆、人間恐怖を、たとい一時でも、まぎらす事の出来るずいぶんよい手段である事が、やがて自分にもわかって来ました。それらの手段を求めるためには、自分の持ち物全部を売却しても悔いない気持さえ、抱くようになりました。
自分には、淫売婦というものが、人間でも、女性でもない、白痴か狂人のように見え、そのふところの中で、自分はかえって全く安心して、ぐっすり眠る事が出来ました。みんな、哀しいくらい、実にみじんも慾というものが無いのでした。そうして、自分に、同類の親和感とでもいったようなものを覚えるのか、自分は、いつも、その淫売婦たちから、窮屈でない程度の自然の好意を示されました。何の打算も無い好意、押し売りでは無い好意、... | 自分には、淫売婦というものが、どのような存在に見え、どのように安心することが出来ましたか。 | 自分には、淫売婦というものが、人間でも、女性でもない、白痴か狂人のように見え、そのふところの中で、自分はかえって全く安心して、ぐっすり眠る事が出来ました。 |
JCRRAG_010871 | 国語 | 酒、煙草、淫売婦、それは皆、人間恐怖を、たとい一時でも、まぎらす事の出来るずいぶんよい手段である事が、やがて自分にもわかって来ました。それらの手段を求めるためには、自分の持ち物全部を売却しても悔いない気持さえ、抱くようになりました。
自分には、淫売婦というものが、人間でも、女性でもない、白痴か狂人のように見え、そのふところの中で、自分はかえって全く安心して、ぐっすり眠る事が出来ました。みんな、哀しいくらい、実にみじんも慾というものが無いのでした。そうして、自分に、同類の親和感とでもいったようなものを覚えるのか、自分は、いつも、その淫売婦たちから、窮屈でない程度の自然の好意を示されました。何の打算も無い好意、押し売りでは無い好意、... | 自分は、淫売婦たちに、どのようなものを見た夜もありましたか。 | 自分には、その白痴か狂人の淫売婦たちに、マリヤの円光を現実に見た夜もあったのです。 |
JCRRAG_010872 | 国語 | 父は議会の無い時は、月に一週間か二週間しかその家に滞在していませんでしたので、父の留守の時は、かなり広いその家に、別荘番の老夫婦と自分と三人だけで、自分は、ちょいちょい学校を休んで、さりとて東京見物などをする気も起らず(自分はとうとう、明治神宮も、楠正成の銅像も、泉岳寺の四十七士の墓も見ずに終りそうです)家で一日中、本を読んだり、絵をかいたりしていました。父が上京して来ると、自分は、毎朝そそくさと登校するのでしたが、しかし、本郷千駄木町の洋画家、安田新太郎氏の画塾に行き、三時間も四時間も、デッサンの練習をしている事もあったのです。高等学校の寮から脱けたら、学校の授業に出ても、自分はまるで聴講生みたいな特別の位置にいるような、それは... | 本郷千駄木町には誰の画塾がありましたか。 | 本郷千駄木町には、洋画家、安田新太郎氏の画塾がありました。 |
JCRRAG_010873 | 国語 | 堀木はそれを半分はお世辞で言ったのでしょうが、しかし、自分にも、重苦しく思い当る事があり、たとえば、喫茶店の女から稚拙な手紙をもらった覚えもあるし、桜木町の家の隣りの将軍のはたちくらいの娘が、毎朝、自分の登校の時刻には、用も無さそうなのに、ご自分の家の門を薄化粧して出たりはいったりしていたし、牛肉を食いに行くと、自分が黙っていても、そこの女中が、……また、いつも買いつけの煙草屋の娘から手渡された煙草の箱の中に、……また、歌舞伎を見に行って隣りの席のひとに、……また、深夜の市電で自分が酔って眠っていて、……また、思いがけなく故郷の親戚の娘から、思いつめたような手紙が来て、……また、誰かわからぬ娘が、自分の留守中にお手製らしい人形を、…... | 自分にはどのような雰囲気がつきまとっていると感じていますか。 | 自分には何か女に夢を見させる雰囲気が、自分のどこかにつきまとっている事は、それは、のろけだの何だのといういい加減な冗談でなく、否定できないのでありました。 |
JCRRAG_010874 | 国語 | 堀木はそれを半分はお世辞で言ったのでしょうが、しかし、自分にも、重苦しく思い当る事があり、たとえば、喫茶店の女から稚拙な手紙をもらった覚えもあるし、桜木町の家の隣りの将軍のはたちくらいの娘が、毎朝、自分の登校の時刻には、用も無さそうなのに、ご自分の家の門を薄化粧して出たりはいったりしていたし、牛肉を食いに行くと、自分が黙っていても、そこの女中が、……また、いつも買いつけの煙草屋の娘から手渡された煙草の箱の中に、……また、歌舞伎を見に行って隣りの席のひとに、……また、深夜の市電で自分が酔って眠っていて、……また、思いがけなく故郷の親戚の娘から、思いつめたような手紙が来て、……また、誰かわからぬ娘が、自分の留守中にお手製らしい人形を、…... | 自分は、何か女に夢を見させる雰囲気が、自分のどこかにつきまとっている事を堀木ごとき者に指摘されて、何を感じましたか。 | 自分は、それを堀木ごとき者に指摘せられ、屈辱に似た苦さを感じました。 |
JCRRAG_010875 | 国語 | 堀木はそれを半分はお世辞で言ったのでしょうが、しかし、自分にも、重苦しく思い当る事があり、たとえば、喫茶店の女から稚拙な手紙をもらった覚えもあるし、桜木町の家の隣りの将軍のはたちくらいの娘が、毎朝、自分の登校の時刻には、用も無さそうなのに、ご自分の家の門を薄化粧して出たりはいったりしていたし、牛肉を食いに行くと、自分が黙っていても、そこの女中が、……また、いつも買いつけの煙草屋の娘から手渡された煙草の箱の中に、……また、歌舞伎を見に行って隣りの席のひとに、……また、深夜の市電で自分が酔って眠っていて、……また、思いがけなく故郷の親戚の娘から、思いつめたような手紙が来て、……また、誰かわからぬ娘が、自分の留守中にお手製らしい人形を、…... | 自分は堀木ごとき者に、何か女に夢を見させる雰囲気が、自分のどこかにつきまとっている事を指摘された後、淫売婦と遊ぶ事に対して、どうなりましたか。 | 自分は堀木ごとき者にそれを指摘された後、淫売婦と遊ぶ事にも、にわかに興が覚めました。 |
JCRRAG_010876 | 国語 | 北緯二十度、東経百十五度。
――というと、そこはちょうど香港を真南に三百五十キロばかりくだった海面であるが、警備中のわが駆逐艦松風は、一せきのあやしい中国船が前方を南西へむかって横ぎっていくのを発見した。
「――貨物船。推定トン数五百トン、船尾に“平靖号”の三字をみとむ……」
と、見張兵は、望遠鏡片手に、大声でどなる。
艦橋には、艦長の姿があらわれた。そしてこれも双眼鏡をぴたりと両眼につけ、蒼茫とくれゆく海面に黒煙をうしろにながくひきながら、全速力で遠ざかりゆくその怪貨物船にじっと注目した。
「商船旗もだしておりませんし、さっきから観察していますと、多分にあやしむべき点があります」
副長が、傍から説明をはさんだ。
艦長は、... | 松風は、警備中なにを発見したか。 | 松風は警備中のわが駆逐艦松風は、一せきのあやしい中国船が前方を南西へむかって横ぎっていくのを発見した。 |
JCRRAG_010877 | 国語 | 北緯二十度、東経百十五度。
――というと、そこはちょうど香港を真南に三百五十キロばかりくだった海面であるが、警備中のわが駆逐艦松風は、一せきのあやしい中国船が前方を南西へむかって横ぎっていくのを発見した。
「――貨物船。推定トン数五百トン、船尾に“平靖号”の三字をみとむ……」
と、見張兵は、望遠鏡片手に、大声でどなる。
艦橋には、艦長の姿があらわれた。そしてこれも双眼鏡をぴたりと両眼につけ、蒼茫とくれゆく海面に黒煙をうしろにながくひきながら、全速力で遠ざかりゆくその怪貨物船にじっと注目した。
「商船旗もだしておりませんし、さっきから観察していますと、多分にあやしむべき点があります」
副長が、傍から説明をはさんだ。
艦長は、... | 怪貨物船の甲板上に船員はいたか。 | 怪貨物船の甲板上には、たった一人の船員のすがたも見えない。 |
JCRRAG_010878 | 国語 | 「いや、どうも。びっくりしたとたんに、化の皮がはがれるとは、われながら大失敗でありました。はははは」
と、半裸の若者は、頭をかいてわらう。びっくりした気色はさらに見えない。見なおすと、この男、わかいながらなかなか太々しいところが見える。
だが、こっちは岸隊長以下、すこしも油断はしていなかった。中国人が、急に巻舌の東京弁でしゃべりだしたのには、ちょっとおどろいたが、わけのわからないうちに安心はしない。
「わらうのは後にしろ。貴様は何者か」
岸隊長も、こんどは日本語でどなりつけた。
「やあ、どうもわが海軍軍人の前でわらってすみませんでした」
と、かの若者は頭を下げ「私は四国の生れで竹見太郎八という者です。この貨物船平靖号の水夫を... | 半裸の若者は、体のどこをかきながらわらったか。 | 半裸の若者は、頭をかいてわらう。 |
JCRRAG_010879 | 国語 | 「いや、どうも。びっくりしたとたんに、化の皮がはがれるとは、われながら大失敗でありました。はははは」
と、半裸の若者は、頭をかいてわらう。びっくりした気色はさらに見えない。見なおすと、この男、わかいながらなかなか太々しいところが見える。
だが、こっちは岸隊長以下、すこしも油断はしていなかった。中国人が、急に巻舌の東京弁でしゃべりだしたのには、ちょっとおどろいたが、わけのわからないうちに安心はしない。
「わらうのは後にしろ。貴様は何者か」
岸隊長も、こんどは日本語でどなりつけた。
「やあ、どうもわが海軍軍人の前でわらってすみませんでした」
と、かの若者は頭を下げ「私は四国の生れで竹見太郎八という者です。この貨物船平靖号の水夫を... | 岸隊長は何語でどなりつけたか。 | 岸隊長も、こんどは日本語でどなりつけた。 |
JCRRAG_010880 | 国語 | 「いや、どうも。びっくりしたとたんに、化の皮がはがれるとは、われながら大失敗でありました。はははは」
と、半裸の若者は、頭をかいてわらう。びっくりした気色はさらに見えない。見なおすと、この男、わかいながらなかなか太々しいところが見える。
だが、こっちは岸隊長以下、すこしも油断はしていなかった。中国人が、急に巻舌の東京弁でしゃべりだしたのには、ちょっとおどろいたが、わけのわからないうちに安心はしない。
「わらうのは後にしろ。貴様は何者か」
岸隊長も、こんどは日本語でどなりつけた。
「やあ、どうもわが海軍軍人の前でわらってすみませんでした」
と、かの若者は頭を下げ「私は四国の生れで竹見太郎八という者です。この貨物船平靖号の水夫を... | 岸隊長は、だれをひきつれて公室の入り口をくぐったか。 | 岸隊長は、隊員の一部をひきつれて、竹見のあとにつづいて公室の入口をくぐった。 |
JCRRAG_010881 | 国語 | 「いや、どうも。びっくりしたとたんに、化の皮がはがれるとは、われながら大失敗でありました。はははは」
と、半裸の若者は、頭をかいてわらう。びっくりした気色はさらに見えない。見なおすと、この男、わかいながらなかなか太々しいところが見える。
だが、こっちは岸隊長以下、すこしも油断はしていなかった。中国人が、急に巻舌の東京弁でしゃべりだしたのには、ちょっとおどろいたが、わけのわからないうちに安心はしない。
「わらうのは後にしろ。貴様は何者か」
岸隊長も、こんどは日本語でどなりつけた。
「やあ、どうもわが海軍軍人の前でわらってすみませんでした」
と、かの若者は頭を下げ「私は四国の生れで竹見太郎八という者です。この貨物船平靖号の水夫を... | 高級船員らしい七八人の男は、隊長岸少尉のかおを見た際になにを行ったか。 | 入口をはいったところには、高級船員らしい七八人の男がきちんと整列していて、隊長岸少尉のかおを見ると、一せいに挙手の礼を行った。 |
JCRRAG_010882 | 国語 | 「日本人を廃業して、ふたたび日本にかえらないというのか。ふん、なるほど」
岸少尉は、わかいがさすがに思慮ある士官、べつだんいやなかおもせず、船長のおもてを見かえして、
「あれは今から一ヶ月ほど前のことだったか、長崎県の或るさびれた禅寺において、土地の人がびっくりしたくらいの盛大な法会が行われたそうだね」
と妙なことを岸少尉はしゃべりだした。
「はあ、そうでしたか」
「そうでしたかというところを見ると、貴公は知らないと見えるね。――その法会に参加した人数は五十人あまり、法会の模様からさっすると、これは団体的葬儀の略式なるものであったということが分った。その中に一人、容貌魁偉にして、ももより下、両脚が切断されて無いという人物が混って... | 虎船長は岸少尉のかたるうちに、途中で一度、どのような反応をしたか。 | 岸少尉のかたるうちに、途中で一度、虎船長は、はっと思った様子だった。 |
JCRRAG_010883 | 国語 | 「日本人を廃業して、ふたたび日本にかえらないというのか。ふん、なるほど」
岸少尉は、わかいがさすがに思慮ある士官、べつだんいやなかおもせず、船長のおもてを見かえして、
「あれは今から一ヶ月ほど前のことだったか、長崎県の或るさびれた禅寺において、土地の人がびっくりしたくらいの盛大な法会が行われたそうだね」
と妙なことを岸少尉はしゃべりだした。
「はあ、そうでしたか」
「そうでしたかというところを見ると、貴公は知らないと見えるね。――その法会に参加した人数は五十人あまり、法会の模様からさっすると、これは団体的葬儀の略式なるものであったということが分った。その中に一人、容貌魁偉にして、ももより下、両脚が切断されて無いという人物が混って... | 臨検隊員は、少尉の言葉のいみをやっと諒解して、なにをおこなったか。 | 臨検隊員は、少尉の言葉のいみをやっと諒解して、ものめずらしげに一同のかおを端から端へいくどもじろじろとながめやる。 |
JCRRAG_010884 | 国語 | 「日本人を廃業して、ふたたび日本にかえらないというのか。ふん、なるほど」
岸少尉は、わかいがさすがに思慮ある士官、べつだんいやなかおもせず、船長のおもてを見かえして、
「あれは今から一ヶ月ほど前のことだったか、長崎県の或るさびれた禅寺において、土地の人がびっくりしたくらいの盛大な法会が行われたそうだね」
と妙なことを岸少尉はしゃべりだした。
「はあ、そうでしたか」
「そうでしたかというところを見ると、貴公は知らないと見えるね。――その法会に参加した人数は五十人あまり、法会の模様からさっすると、これは団体的葬儀の略式なるものであったということが分った。その中に一人、容貌魁偉にして、ももより下、両脚が切断されて無いという人物が混って... | 少尉たちの靴音が甲板へきえた際、虎船長はじめ公室の一同は、その場から動いたか。 | 少尉たちの靴音が甲板へきえても、虎船長はじめ公室の一同は、その場を石のようにうごかなかった。 |
JCRRAG_010885 | 国語 | 「あっはっはっ。さすがの海軍さんも、この平靖号にあきれてかえったようだな」
例の大々しい水夫の竹見太郎八は、甲板のうえにはらをゆすぶってからからとわらう。
「ちえっ、自分のことをたなにあげて、なにをわらうんだよ」
すぐ横槍が入った。それは、デリックの下にあぐらをかいて、さっきからのさわぎをもうわすれてしまった顔附で、せっせと釣道具の手入れによねんのない丸本慈三という水夫が、口を出したのである。
「な、なにをッ」
「なにをじゃないぜ。さっきお前は、もうすこしで水兵の銃剣にいもざしになるところじゃった。あぶないあぶない」
この丸本という水夫は、竹見の相棒だった。年齢のところは、竹見よりもそんなに上でもないのに、まるで親爺のような口... | 例の大々しい水夫の竹見太郎八は、甲板のうえでどのようにわらったか。 | 例の大々しい水夫の竹見太郎八は、甲板のうえにはらをゆすぶってからからとわらう。 |
JCRRAG_010886 | 国語 | 「あっはっはっ。さすがの海軍さんも、この平靖号にあきれてかえったようだな」
例の大々しい水夫の竹見太郎八は、甲板のうえにはらをゆすぶってからからとわらう。
「ちえっ、自分のことをたなにあげて、なにをわらうんだよ」
すぐ横槍が入った。それは、デリックの下にあぐらをかいて、さっきからのさわぎをもうわすれてしまった顔附で、せっせと釣道具の手入れによねんのない丸本慈三という水夫が、口を出したのである。
「な、なにをッ」
「なにをじゃないぜ。さっきお前は、もうすこしで水兵の銃剣にいもざしになるところじゃった。あぶないあぶない」
この丸本という水夫は、竹見の相棒だった。年齢のところは、竹見よりもそんなに上でもないのに、まるで親爺のような口... | 竹見の相棒の名前はなにか。 | 竹見の相棒の名前は、丸本という水夫だった。 |
JCRRAG_010887 | 国語 | 「なに、もう一度いってみろ」
船長は虎の名にふさわしく、眼を炯々とひからせて、水夫竹見をにらみつけた。
「はい。私は本船を下りたくあります」
「な、なにをいうか、本船にのりこむ前に、あれほど誓約したではないか。本船にのったうえからは、本船と身命をともにして、目的に邁進すると。ははあお前は、南シナ海の蒼い海の色をみて、きゅうに臆病風に見まわれたんだな」
竹見は、目玉をくるくるうごかしつつ、
「臆病風なんて、そんなことは絶対にありません。私は……」
といっているとき、横から一等運転士の坂谷が
「船長。ノーマ号が、本船に“用談アリ、停船ヲ乞ウ”と信号旗をあげました。いかがいたしましょうか」
「なに、用談アリ、停船ヲ乞ウといってきたか... | 船長はどのように水夫、竹見をにらみつけたか。 | 船長は虎の名にふさわしく、眼を炯々とひからせて、水夫、竹見をにらみつけた。 |
JCRRAG_010888 | 国語 | 「なに、もう一度いってみろ」
船長は虎の名にふさわしく、眼を炯々とひからせて、水夫竹見をにらみつけた。
「はい。私は本船を下りたくあります」
「な、なにをいうか、本船にのりこむ前に、あれほど誓約したではないか。本船にのったうえからは、本船と身命をともにして、目的に邁進すると。ははあお前は、南シナ海の蒼い海の色をみて、きゅうに臆病風に見まわれたんだな」
竹見は、目玉をくるくるうごかしつつ、
「臆病風なんて、そんなことは絶対にありません。私は……」
といっているとき、横から一等運転士の坂谷が
「船長。ノーマ号が、本船に“用談アリ、停船ヲ乞ウ”と信号旗をあげました。いかがいたしましょうか」
「なに、用談アリ、停船ヲ乞ウといってきたか... | ノーマ号は、なにに並行しそうな位置まで近づいていたか。 | ノーマ号は、もうすこしで平靖号と並行しそうな位置まで近づいていた。 |
JCRRAG_010889 | 国語 | 「なに、もう一度いってみろ」
船長は虎の名にふさわしく、眼を炯々とひからせて、水夫竹見をにらみつけた。
「はい。私は本船を下りたくあります」
「な、なにをいうか、本船にのりこむ前に、あれほど誓約したではないか。本船にのったうえからは、本船と身命をともにして、目的に邁進すると。ははあお前は、南シナ海の蒼い海の色をみて、きゅうに臆病風に見まわれたんだな」
竹見は、目玉をくるくるうごかしつつ、
「臆病風なんて、そんなことは絶対にありません。私は……」
といっているとき、横から一等運転士の坂谷が
「船長。ノーマ号が、本船に“用談アリ、停船ヲ乞ウ”と信号旗をあげました。いかがいたしましょうか」
「なに、用談アリ、停船ヲ乞ウといってきたか... | 虎船長は、だれの同意を確かめたか。 | 虎船長は、事務長の同意を確かめた。 |
JCRRAG_010890 | 国語 | ノーマ号では、飲料水などを、平靖号が頒けてやってもいいという返事に、いろめきわたった。だが、ノーマ号からボートを下そうといったのに対し、平靖号は、こっちが品物をボートに積んでそっちへいくといって聞かないので、ちょっと当惑をしたらしく、しばらくは、その返事をよこさなかった。
やがてのことに、やっと応諾の返事が、ノーマ号からあがったので、いよいよ事務長はボートを仕立てて、六人の部下とともに海上に下りた。
事務長は、みずから舵をひいた。
飲料水と野菜と果実とは、舳にあつめられ、そのうえに大きなカンバスのぬのをかぶせてあった。
虎船長は、本船をはなれていくボートをじっとみていたが、側をかえりみて、
「おい、一等運転士。あの荷は、ばか... | 船長は、どのようにくびを左右にふったか。 | 船長は、ふしぎそうに、くびを左右へふった。 |
JCRRAG_010891 | 国語 | ノーマ号では、飲料水などを、平靖号が頒けてやってもいいという返事に、いろめきわたった。だが、ノーマ号からボートを下そうといったのに対し、平靖号は、こっちが品物をボートに積んでそっちへいくといって聞かないので、ちょっと当惑をしたらしく、しばらくは、その返事をよこさなかった。
やがてのことに、やっと応諾の返事が、ノーマ号からあがったので、いよいよ事務長はボートを仕立てて、六人の部下とともに海上に下りた。
事務長は、みずから舵をひいた。
飲料水と野菜と果実とは、舳にあつめられ、そのうえに大きなカンバスのぬのをかぶせてあった。
虎船長は、本船をはなれていくボートをじっとみていたが、側をかえりみて、
「おい、一等運転士。あの荷は、ばか... | 一等運転士は、口では愕いているが、態度はどのようなものだったか。 | 一等運転士は、口では愕いているが、態度では、そんなに愕いていない。 |
JCRRAG_010892 | 国語 | ノーマ号では、飲料水などを、平靖号が頒けてやってもいいという返事に、いろめきわたった。だが、ノーマ号からボートを下そうといったのに対し、平靖号は、こっちが品物をボートに積んでそっちへいくといって聞かないので、ちょっと当惑をしたらしく、しばらくは、その返事をよこさなかった。
やがてのことに、やっと応諾の返事が、ノーマ号からあがったので、いよいよ事務長はボートを仕立てて、六人の部下とともに海上に下りた。
事務長は、みずから舵をひいた。
飲料水と野菜と果実とは、舳にあつめられ、そのうえに大きなカンバスのぬのをかぶせてあった。
虎船長は、本船をはなれていくボートをじっとみていたが、側をかえりみて、
「おい、一等運転士。あの荷は、ばか... | 竹見太郎八は、どこを歩いていたか。 | 竹見太郎八は、悠々とノーマ号の甲板をぶらぶらと歩いていた。 |
JCRRAG_010893 | 国語 | ノーマ号の船員の一人が、水夫竹見のそばへとびこんできたと思うと、いきなり手をのばして、竹見の口から、火のついた煙草をもぎとった。
「あれッ、らんぼうするな。おれに、煙草をすわせないつもりか」
竹見は、ことばもはげしく、中国語でどなりつけた。そしてすばやくみがまえた。だが、彼の眼光は、どうしたわけか、てつのように冷たくすんで、相手の顔色をじっとうかがっていた。
「いのち知らずの、黄いろい猿め! とんでもない野郎だ!」
そういったのは、ノーマ号の船員だ。
彼は、竹見からもぎとった火のついた煙草を、大口あいて、ぱくりと口中へ! まるで、はなしにある煙草ずきの蛙のように。
「おや、この煙草どろぼうめ。おれには、煙草をすわせないで、ひっ... | ノーマ号の船員の一人が、水夫竹見からもぎとったものはなにか。 | ノーマ号の船員の一人が、水夫竹見のそばへとびこんできたと思うと、いきなり手をのばして、竹見の口から、火のついた煙草をもぎとった。 |
JCRRAG_010894 | 国語 | ノーマ号の船員の一人が、水夫竹見のそばへとびこんできたと思うと、いきなり手をのばして、竹見の口から、火のついた煙草をもぎとった。
「あれッ、らんぼうするな。おれに、煙草をすわせないつもりか」
竹見は、ことばもはげしく、中国語でどなりつけた。そしてすばやくみがまえた。だが、彼の眼光は、どうしたわけか、てつのように冷たくすんで、相手の顔色をじっとうかがっていた。
「いのち知らずの、黄いろい猿め! とんでもない野郎だ!」
そういったのは、ノーマ号の船員だ。
彼は、竹見からもぎとった火のついた煙草を、大口あいて、ぱくりと口中へ! まるで、はなしにある煙草ずきの蛙のように。
「おや、この煙草どろぼうめ。おれには、煙草をすわせないで、ひっ... | 竹見は、ノーマ号の船員の一人に何語でどなりつけたか。 | 竹見は、ことばもはげしく、中国語でどなりつけた。 |
JCRRAG_010895 | 国語 | 「やい、ハルク、その缶詰は、おれたちのものだ。こっちへよこせ」
ハルクというのは、その逞しい巨人水夫の名のようだ。缶詰にみれんたっぷりの船員たちはハルクの前へおしかけて、うばいかえそうとする。
「……」
巨人ハルクは、一語も発しないで、近づいてくる船員のかおをじろりじろりとながめまわす。そして缶詰をわざと顔の前でひねくりまわして、ごくりと唾をのんでみせたりする。こいつはかえって気味がわるい。
いきおいこんだ船員たちは、猫ににらまれたねずみのように、もう一歩も前に出られなくなった。
「やい、ハルク。意地わるをすると、あとで後悔しなければならないぞ」
ハルクは、どこを風がふくかといったかおであった。
竹見は、ハルクが、ばかに気... | 巨人ハルクは、近づいてくる船員にどのような反応をしたか。 | 巨人ハルクは、一語も発しないで、近づいてくる船員のかおをじろりじろりとながめまわす。 |
JCRRAG_010896 | 国語 | 「やい、ハルク、その缶詰は、おれたちのものだ。こっちへよこせ」
ハルクというのは、その逞しい巨人水夫の名のようだ。缶詰にみれんたっぷりの船員たちはハルクの前へおしかけて、うばいかえそうとする。
「……」
巨人ハルクは、一語も発しないで、近づいてくる船員のかおをじろりじろりとながめまわす。そして缶詰をわざと顔の前でひねくりまわして、ごくりと唾をのんでみせたりする。こいつはかえって気味がわるい。
いきおいこんだ船員たちは、猫ににらまれたねずみのように、もう一歩も前に出られなくなった。
「やい、ハルク。意地わるをすると、あとで後悔しなければならないぞ」
ハルクは、どこを風がふくかといったかおであった。
竹見は、ハルクが、ばかに気... | 竹見はハルクを気に入ったか。 | 竹見は、ハルクが、ばかに気に入った。 |
JCRRAG_010897 | 国語 | その遊びにどんな名がついているのか知らない。まだそんな遊びをいまの子どもたちがはたしてするのか、町を歩くとき私は注意してみるがこれまでみたためしがない。あのころつまり私たちがその遊びをしていた当時でさえ、他の子どもたちはそういう遊びを知っていたかどうかもあやしい。いちおう私と同年輩の人にたずねてみたいと思う。
なんだか私たちのあいだにだけあり、後にも先にもないもののような気がする。そう思うことは楽しい。してみると私たちのなかまのたれかが創案したのだが、いったいたれだろう、あんなあわれ深い遊戯をつくり出したのは。
その遊びというのは、ふたりいればできる。ひとりがかくれんぼのおにのように眼をつむって待っている。そのあいだに他のひとり... | 興味の中心は何につながっていましたか。 | 興味の中心はかくされた土中の一握の花の美しさにつながっていました。 |
JCRRAG_010898 | 国語 | その遊びにどんな名がついているのか知らない。まだそんな遊びをいまの子どもたちがはたしてするのか、町を歩くとき私は注意してみるがこれまでみたためしがない。あのころつまり私たちがその遊びをしていた当時でさえ、他の子どもたちはそういう遊びを知っていたかどうかもあやしい。いちおう私と同年輩の人にたずねてみたいと思う。
なんだか私たちのあいだにだけあり、後にも先にもないもののような気がする。そう思うことは楽しい。してみると私たちのなかまのたれかが創案したのだが、いったいたれだろう、あんなあわれ深い遊戯をつくり出したのは。
その遊びというのは、ふたりいればできる。ひとりがかくれんぼのおにのように眼をつむって待っている。そのあいだに他のひとり... | 土中の小さな花のかたまりは私の心の中の何でしたか。 | 土中の小さな花のかたまりは私の心の中のたのしい秘密でした。 |
JCRRAG_010899 | 国語 | その遊びにどんな名がついているのか知らない。まだそんな遊びをいまの子どもたちがはたしてするのか、町を歩くとき私は注意してみるがこれまでみたためしがない。あのころつまり私たちがその遊びをしていた当時でさえ、他の子どもたちはそういう遊びを知っていたかどうかもあやしい。いちおう私と同年輩の人にたずねてみたいと思う。
なんだか私たちのあいだにだけあり、後にも先にもないもののような気がする。そう思うことは楽しい。してみると私たちのなかまのたれかが創案したのだが、いったいたれだろう、あんなあわれ深い遊戯をつくり出したのは。
その遊びというのは、ふたりいればできる。ひとりがかくれんぼのおにのように眼をつむって待っている。そのあいだに他のひとり... | 私たちは家へ帰る前に何をして帰ることもありましたか。 | 私たちは家へ帰る前に美しい作品を一つ土中にうめておきそのまま帰ることもありました。 |
JCRRAG_010900 | 国語 | その遊びにどんな名がついているのか知らない。まだそんな遊びをいまの子どもたちがはたしてするのか、町を歩くとき私は注意してみるがこれまでみたためしがない。あのころつまり私たちがその遊びをしていた当時でさえ、他の子どもたちはそういう遊びを知っていたかどうかもあやしい。いちおう私と同年輩の人にたずねてみたいと思う。
なんだか私たちのあいだにだけあり、後にも先にもないもののような気がする。そう思うことは楽しい。してみると私たちのなかまのたれかが創案したのだが、いったいたれだろう、あんなあわれ深い遊戯をつくり出したのは。
その遊びというのは、ふたりいればできる。ひとりがかくれんぼのおにのように眼をつむって待っている。そのあいだに他のひとり... | 砂の上にそっとはわせてゆく指先にこつんとかたいものがあたるとそこに何がありますか。 | 砂の上にそっとはわせてゆく指先にこつんとかたいものがあたるとそこに硝子があります。 |
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