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礫心中 | 野村胡堂 | 橋の袂に美女の裸身
しはんほになすはかはすなにほんはし
「吝嗇漢に茄子は買は(わ)すな日本橋――か、ハッハッハッハ、こいつは面白い、逆さに読んでも同じだ、落首もこれ位になると点に入るよ」
「穿ってるぜ、畜生め、まったく御改革の今日びじゃ、五十五貫の初鰹どころか、一口一分の初茄子せえ、江戸ッ子の口にゃ入えらねえ、何んのことはねえ、八百八町、吝嗇漢のお揃いとけつからア、オロシヤの珍毛唐が風の便りに聞いて笑って居るとよ、ヘッヘッヘッヘッ」
場所もあろうに、公方様は膝元の江戸日本橋、
「一、忠孝を励むべき事……」
と天下の掟を掲げた高札の真ん中に何者の仕業ぞ、貼付けた一枚の鼻紙、墨黒々と書かれたのは、この皮肉な落首でした。
さしも... |
掠奪した短刀 | 田中貢太郎 | 松山寛一郎は香美郡夜須の生れであった。寛一郎は元治元年七月二十七日、当時土佐の藩獄に繋がれていた武市瑞山を釈放さすために、野根山に屯集した清岡道之助一派の義挙に加わろうとしたが、時期を失して目的を達することができなかったので、それ以来自暴自棄になって、毎日のように喧嘩ばかりして歩いていたが、そのうちに慶応四年となって、鳥羽伏見の役が起り、板垣退助が土佐の藩兵を率いて東上した。寛一郎もその旗下に属して、迅衝隊の隊士として会津へ往ったが、会津城が陥った夜、会津藩士の家へ押し入ったところで、一人の婦人が自害しようとしていた。見ると婦人の手にした短刀が立派なので、慾心がきざした。で、血で短刀を汚さないうちにと思って、いきなり婦人を斬り殺し... |
忠僕 | 池谷信三郎 | 1
嘉吉は山の温泉宿の主人だった。この土地では一番の物持で、山や畑の広い地所を持っていた。山には孟宗の竹林が茂り、きのこ畑にきのこが沢山とれた。季節になると筍や竹材を積んだトラックが、街道に砂埃をあげ乍ら、七里の道を三島の町へ通って行った。
嘉吉はまだ三十をちょっと越したばかりの若い男だった。親父が死んだので、東京の或る私立大学を止めて、この村へ帰って来た。
別段にする事もなく、老人を集めては、一日、碁を打っていた。余っ程閑暇の時は、東京で病みついたトルストイの本を読んでいた。それから時々は、ぶらぶらと、近くにある世古の滝の霊場に浸かり旁々山や畠を見まわった。
嘉吉は人が好くて、大まかで、いつもにこにことしていた。小作人が... |
瘠我慢の説 | 石河幹明 | 瘠我慢の説は、福沢先生が明治二十四年の冬頃に執筆せられ、これを勝安芳、榎本武揚の二氏に寄せてその意見を徴められしものなり。先生の本旨は、右二氏の進退に関し多年来心に釈然たらざるものを記して輿論に質すため、時節を見計らい世に公にするの考なりしも、爾来今日に至るまで深く筐底に秘して人に示さざりしに、世間には往々これを伝うるものありと見え、現に客冬刊行の或る雑誌にも掲載したるよし(栗本鋤雲翁は自から旧幕の遺臣を以て居り、終始その節を変ぜざりし人にして、福沢先生と相識れり。つねに勝氏の行為に不平を懐き、先生と会談の語次、ほとんどその事に及ばざることなかりしという。この篇の稿成るや、先生一本を写し、これを懐にして翁を本所の宅に訪いしに、翁は... |
雲 | 竹内浩三 | ふわふわ雲が飛んでいる
それは春の真綿雲
むくむく雲が湧いて来た
それは夏の入道雲
さっさと雲が掃いたよう
それは秋空 よい天気
どんより灰色 いやな雲
それは雪雲 冬の空
まあるい空のカンヴァスに
いろんな雲を描き分ける
お天道さんはえらい方 |
釜沢行 | 木暮理太郎 | 都門の春はもう余程深くなった。満目の新緑も濁ったように色が濃くなって、暗いまでに繁り合いながら、折からの雨に重く垂れている。其中に独り石榴の花が炎をあげて燃えている火のように赤い。それが動もすれば幽婉の天地と同化して情熱の高潮に達し易い此頃の人の心を表わしているようだ。此際頬杖でも突きながら昔の大宮人のように官能の甘い悲哀に耽るのも、人間に対する自然の同情を無にしたものではなかろうが、自分は一度試みてそれが忘られぬ思い出となっている五月の山の旅、あの盛んな青葉の中を縦横にもぐり歩きたい。渦まく若葉の青い炎に煽られて、抑え難きまでに逸る心は、一方では又深い淵のように無限の力をうちに湛えた緑の大波に揉まれ揉まれて、疲れ果てた体を波の弄... |
審判 | カフカフランツ | "第一章 逮捕・グルゥバッハ夫人との\n 対話・次にビュルストナ(...TRUNCATED) |
若い木霊 | 宮沢賢治 | "〔冒頭原稿数枚なし〕\n「ふん。こいつらがざわざわざわざわ云っていた(...TRUNCATED) |
貞操問答 | 菊池寛 | "金を売る\n\n\n\n\n一\n\n 七月、もうすっかり夏であるべきはずだのに、こ(...TRUNCATED) |
湖南の扇 | 芥川竜之介 | " 広東に生れた孫逸仙等を除けば、目ぼしい支那の革命家は、――黄興、(...TRUNCATED) |
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